FAQ
「たんぽぽ計画」に関して良く聞かれる質問とその応え
Q: たんぽぽ計画とはどんな計画ですか。
A: この計画は国際宇宙ステーション上で微生物や宇宙塵、有機物を採集しようという計画です。同時に微生物や有機物を宇宙空間に曝露してそこで、微生物がどの程度生存できるか、有機物がどのように変成していくかを調べたいと思っています。
Q: 計画はどのような段階ですか。
A: 計画は国際宇宙ステーションの第二期利用計画で実施する計画の募集に提案されました。曝露部では4つか5つの実験を共同で行う実験が計画されていますが、「たんぽぽ計画」その共同実験候補の一つとして選定されました。その後、共同で行う実験とは別に実験を行う準備が進み、2015年にたんぽぽ計画の装置が打上られました。
Q: 宇宙に微生物はいるのでしょうか。
A: これまでに高度58kmで微生物が見つかっています。宇宙ステーションが周回している高度400kmに微生物がいてもおかしくありません。この実験は微生物がいるかどうかを確かめる実験です。
Q: 微生物は生きているのですか。
A: 高度400kmは真空ですので、微生物が増えることはまずありません。生きているとすれば、いわば冬眠している状態でしょう。
Q: 地球外の微生物を採集するのですか。
A: 太陽系全体に比べれば地球のすぐそば400kmでの採集ですから、地球由来の微生物を捕る可能性が高いとおもいます。将来は地球外の微生物も採集できるような実験をしたいと思っています。
Q: 地球外の病原菌を地球上に持ってくる可能性はありませんか。
A: 地球上には毎年数万トンの宇宙塵が地球外からやってきています。それらは、ほとんど燃え尽きないで地上に到達します。従ってもし、地球外から病原菌がやってくるのなら、既にやって来ていることになります。
Q: ということは地球外から微生物がやってくることは全くないということですか。
A: それはわかりません。地球外から微生物がやってきても、地球上のすべての場所は既に地球の生物で満たされているので、そこでは増えることができないということでしょう。生物はそれぞれの住みかにあわせて進化します。もとの住みかに適応した生物にとって、地球上が良い住みかとは限らないということかもしれません。
Q: 微生物採集はかってにやって良いのですか。
A: いいえ、こうした実験は国際的会議の取り決めに従う事になります。国際的会議(COSPAR)の取り決めに従って、「たんぽぽ計画」も実施します。こうした安全性について、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)とアメリカ航空宇宙局(NASA)の審査を受けた上で実験を実施しています。
Q: どうやって微生物を採集するのですか。
A: エアロゲルという極低密度の物質に衝突させて採集します。真空の宇宙空間では高速で地球を周回しているもの以外は地球に落ちてしまいます。微生物がいるとすれば、高速でとんでいるはずです。高速でぶつかる微生物がエアロゲルで採集できることを地上実験で確かめました。
Q: 私も実験に参加できますか。
A: たんぽぽ計画は2015年に装置を打ち上げて、その後1年から数年後にサンプルが戻る予定です。いまも大学院生に研究を手伝ってもらっています。あなたも大学院生になれば参加できる方法があります。また、同様の実験計画を今後準備していく予定です。
Q:「たんぽぽ計画」は何を調べるのが目的ですか?
A: たんぽぽ計画は、「生命(微生物)が地球から脱出して他の天体(火星や木星など)に到達できるかどうか?
」という点を調べます。同時に、「生命の起原以前に有機物が宇宙から地球にやってきた可能性がどれくらいあるのか」を調べます。さらに「エアロゲルという材料が実際に宇宙で使えること」を確かめます。
Q: エアロゲルでどのように微粒子を捕まえるのですか?
A: エアロゲルを使った捕集装置は、粒子がゲルに飛び込んでくるのを待つだけの、パッシブ(受動的)な装置です。宇宙空間を超高速度で飛び込んでくる粒子が、例えば金属板などに当たると一瞬で昇華してしまい粒子は捕獲できません。ところが、エアロゲルは密度が大変低い(0.03-0.01g/cm3)ので、粒子の衝突エネルギーはトラックを掘り進むことに多く使われます。そのため、粒子に比較的ダメージを与えずに捕獲することができるのです。それでも、多少は摩擦熱などで粒子に影響を与えます。そこで、地上で模擬実験を行い、粒子がどのくらいの熱的ダメージを受けるかなどについて、事前に充分把握する研究を行いました。
Q: 「たんぽぽ計画」の装置はどのように回収するのですか?
A: 「たんぽぽ計画」の装置は、エアロゲルを収納した表が網状のアルミ容器(捕集パネル)と曝露パネルの二つ(たんぽぽ装置http://www.ls.toyaku.ac.jp/%7Elcb-7/tanpopo/instrument.html)です。たんぽぽ装置はExHAMとよばれる固定装置の表面に取り付けられます。ExHAMを、国際宇宙ステーションのロボットアームを用いて2015年5月に国際宇宙ステーションの一部に固定し、曝露実験が進行中です。2016年6月に1回目の回収が行われました。回収は実験開始4年経過後ぐらいまでに何回か行う予定です。
Q: 採集装置はどうやって、地球上へ持って帰りますか?
A: 「たんぽぽ計画」の採集装置は、アメリカのスペースX社の地球帰還用宇宙カプセルで地上に持ち帰る計画です。「たんぽぽ装置」のパネルは回収用の袋に入れて持ち帰ることになります。
Q: 回収してから、微生物や有機物はどのように分析しますか?
A: 分析は初期分析とその後の本分析にわかれます。先ず、エアロゲルの概観の観察と撮影をおこない、トラックの数と形状を観察します。「トラック」というのは、エアロゲル中を掘り進む粒子によって形成される、貫入孔のことです。トラックの形状と衝突方向から宇宙塵を含むのか、地球由来微粒子なのか、微生物を含む可能性があるのかを判定します。その判定結果に基づいて、それぞれを有機物分析担当や微生物分析担当機関に送付することになります。微粒子の半数は後日の再分析に備えて保存する予定です。
Q: トラックの解析は、どのようにおこないますか、また何がわかるのですか?
A: まず「トラック」というのは、エアロゲル中を掘り進む粒子によって形成される、貫入孔のことです。粒子の突入速度や粒子の物性により、細長型や紡錘型など様々な形状をとります。試料が地球に帰ってきたら最初にトラック全体の画像を撮影し、記録します。それぞれのトラックの長さや太さ、入り口の孔の大きさを測ります。それからトラックの体積や、先端に捕獲されている粒子の大きさなども測ります。実験で得られたデータベースと比較すると、およそどんな組成の粒子がどのくらいの速度で捕獲されたか、推測することができます。
Q: どのように、微生物を見つけますか?
A: まず「トラック」というのは、エアロゲル中を掘り進む粒子によって形成される、貫入孔のことです。粒子の突入速度や粒子の物性により、細長型や紡錘型など様々な形状をとります。試料が地球に帰ってきたら最初にトラック全体の画像を撮影し、記録します。それぞれのトラックの長さや太さ、入り口の孔の大きさを測ります。それからトラックの体積や、先端に捕獲されている粒子の大きさなども測ります。実験で得られたデータベースと比較すると、およそどんな組成の粒子がどのくらいの速度で捕獲されたか、推測することができます。
Q: 有機化合物の分析をどのように行い、そこから何がわかるのですか?
A: 地球の生物は、有機化合物(炭素と水素を含む化学物質)でできています。生命の起原は不明の点が多いのですが、もし地球上で生命が誕生したとすれば、生命が誕生する前の地球には有機化合物が蓄積したはずです。有機化合物は、原始地球上で火山のエネルギーや雷のエネルギーなどによって合成されたという学説があります。一方で、有機化合物は宇宙から降ってきたという学説もあります。「たんぽぽ計画」では、宇宙から地球に降ってきている有機化合物の種類と量を調べる計画です。どんな種類の有機化合物がどれだけ宇宙から降ってきているのかがわかると、宇宙から降ってきた有機化合物で最初の生物が誕生できたのかどうかがわかるようになります。宇宙から降ってきた有機化合物から地球の生物が生まれたのだとすると、他の星にも同じように有機化合物が蓄積したはずです、したがって地球以外の星にも地球の生物に似た生物が存在する可能性がでてきます。「たんぽぽ計画」で採取を予定している宇宙塵は、数十ミクロンの微粒子です。このような非常に小さな微粒子の中に含まれている有機化合物を分析するためには、顕微鏡レベルの観察手法が用いられます。
Q: 有機化合物を宇宙空間へ曝露する実験はなんのために、どのようにおこなうのですか?
A: 有機化合物は、あまり安定な物質ではありません。宇宙塵が、宇宙空間を長い時間かけて飛んでいる間に、紫外線や宇宙線などにより、有機化合物が変化することが考えられます。もし、有機物が変成してしまうと、地球上に有機化合物が蓄積することができなくなってしまいます。そこで、宇宙空間で有機化合物がどのような変化を受けるのか、逆にどのような状態にあると変化を受けずにいられるのかを調べる目的で有機化合物の暴露実験を行います。
Q: 分析手法に赤外分光、ラマン分光、では何がわかりますか?
A: 赤外分光法は、試料に赤外線を照射し、試料を透過あるいは反射させ、どの波長の赤外線が試料に吸収されるかを調べる方法です。吸収される波長は、どのような原子がどのように結合しているかによって変わってくるので、試料にどのような結合を持つ分子が含まれているのかわかります。ラマン分光法は赤外線の代わりに可視光のレーザーを照射し、試料の表面で散乱された光の波長がもともと照射したレーザー光の波長からどの程度ずれたかを調べる方法です。この波長のずれは赤外分光法と同じように原子同士の結合状態を反映します。赤外分光法とラマン分光法は互いに補い合う関係にあり、一方の方法でわからない情報をもう一方の方法で得ることが出来ます。このような方法を用いることによって、エアロゲルで採集した微粒子にどのような構造を持つ有機物や鉱物が入っているかを調べることが出来ます。
Q: 他のISS実験へ何か迷惑をかける可能性はありますか?
A:「たんぽぽ」は動く装置ではないので、他の装置を傷つける可能性は低いのですが、曝露実験の材料である「有機物」や「微生物」が、真空中で飛び散り、他の装置を汚す可能性があります。そこで、事前に地上の真空装置により模擬的な宇宙環境を作り、これらの材料からどのようなガスが発生するか、四重極質量分析器で測定しました。その結果、ガスは発生せず、他の装置を汚す危険もないことを確認しました。
A: 有機化合物分析のさらに詳しい説明
地球上で発見された炭素質隕石の抽出液を加水分解するとアミノ酸が検出されます。つまり、隕石が形成された場所である宇宙環境には、生物の源となり得る有機化合物が存在するということになります。それでは、宇宙環境で形成されて原始地球上に供給された有機化合物は、地球上の生命の誕生にどの程度寄与したのでしょうか?
「たんぽぽ計画」では、それを明らかにすることを目的の一つにしています。地球に降ってくる隕石の中でも有機化合物を含んでいる炭素質隕石の割合は、それほど多くありませんが、大きさが数十μm(マイクロメーター;1 μm = 0.001 mm)の宇宙塵ではその大部分が炭素質隕石のような性質です。(こうした性質を始源的とよんでいます)。1mmよりも小さい宇宙塵は年間数万トンも地球に降り注いでいます。このため、宇宙塵中の有機化合物の種類と組成を調べることによって、生命の起原よりも前に地球上にやってきた有機化合物の量を知ることができるようになります。ところが、宇宙塵が地球上に到達した後では、地球生物の汚染を受け、宇宙塵そのものに含まれていた有機化合物を識別することができません。そこで、生物汚染のない宇宙空間で宇宙塵を捕集する必要があります。「たんぽぽ計画」で採取される宇宙塵は、非常に良い研究試料になります。
宇宙塵の大きさは、数十μm程度なので、次のような微少領域を対象とした分析法を取り入れます。
nano-SIMS法:同位体分析
顕微ラマン分光法:変性度
顕微赤外分光法(FT-IR):官能基分析
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS):構造の再構築
X線走査型電子顕微鏡およびX線吸収端近傍微細構造分光法 (STXM/XANES):官能基分析A: 有機化合物の分析手法、質量分析の詳しい説明
有機化合物分析では、どのような物質がどれだけ存在するかを明らかにする必要があります。宇宙塵の試料量は非常に少なく、そこには多種の有機化合物が含まれているだろうと予想しています。そこで、少ない試料量で多くの情報が得られる質量分析法を用いる予定です。
また、宇宙塵中に含まれる有機化合物の大部分は、低分子化合物ではなく、複雑な分子構造を持つ高分子量物質であると予想しています。そこで、高分子量物質を適度に壊して、その断片の構造を調べることになります。こうした分析には、TOF-SIMSと呼ばれる手法が有効です。この方法は、金イオンビームを照射することにより、高分子量化合物を穏やかに壊して、生じた断片の質量を求める方法です。分子結合の弱い部分で分解するので、生じた断片を再構成することで、宇宙塵中の有機化合物構造を推定することができます。さらに高エネルギーのイオンを照射する事により、有機化合物を非常に小さい断片や原子にまで分離し、同位体比を求めることも可能です。安定同位体比は、その有機化合物の生成機構や生成した環境条件を反映するので、どこで有機化合物が合成されたかの情報を得ることができます。A: 有機物変成実験のさらに詳しい説明
有機化合物は、宇宙空間の紫外線や宇宙線などにより、組成や量が変化します。そこで、宇宙空間で有機化合物はどんな変化を受けるのかを調べます。直径1 mm程度の小孔に有機化合物を詰めて、1年から数年程度の暴露後に回収し、有機化合物の組成や量の変化を分析します。また、有機化合物を粘土の中にしみ込ませたり、金属イオンとの塩を形成したりする事により、安定性が向上するのかを調べます。暴露する有機化合物としては、アミノ酸、核酸塩基、PAHなどの低分子化合物、タンパク質、核酸などの生体高分子化合物に加えて、宇宙空間を模して合成した模擬星間有機化合物や炭素質隕石からの抽出物などの複雑有機化合物を計画しています。
暴露実験に用いる有機化合物が、暴露部から分離し、宇宙塵採取実験に対する汚染源となる可能性があります。しかし、暴露部から分離した試料であれば、相対速度がほとんどないのでトラックの形状から判断できると考えます。さらに、暴露する有機化合物を同位体ラベルすることにより、区別することも予定しています。
© TANPOPO Project